「憲法の良識」 長谷部恭男先生

「時代にそぐわないと時の首相が思ったからといって、『新しい時代への希望を生み出すような憲法のあるべき姿』に日本国憲法を変えてしまおう、というのは筋の通らない話です。憲法は、ちっとやそっとのことで揺らいではならない社会の長期にわたる仕組みや原則を定めたものです。それを一時の権力をもった人の思い込みだけで変えようというのは、良識に反することだ、これだけははっきりいえます。」(「はじめに」から引用)

2015年6月、衆議院憲法審査会において、集団的自衛権を認める安保法案を自民党の推薦人でありながら違憲と断じた長谷部恭男教授が憲法について、誰もが読めるわかりやすい著作を発表しました。学生時代に憲法の講義を聴講した佐藤功先生の「憲法と君たち」復刻版も1年前に読みましたが、この二つの著作はどこか通じるものがあるように思いました。

本書が読み易いと感じるのは、表現が平易であるだけではなく、各章末にポイントを箇条書きに1ページにまとめてあるからでしょう。このポイントを読んだだけでも、書かれている内容の多くがわかったような気分にもなります。

括目すべきは、第7章「憲法と戦争の意外な関係」です。ここで、著者は国を愛するということは、憲法を大事に思うことだとしています。つまり、国がなぜ戦争をするのかといえば、敵国の憲法原理を攻撃するためだとして、フランスの思想家ジャン・ジャック・ルソーやアメリカの憲法学者フィリップ・バビットの言葉を引用しています。

憲法原理が異なっている故に武力行使も辞さない関係になり、敵対する国家間に長期的に平和共存できる関係を構築するためには、同じ憲法原理を持たなければならないとする主張は、まさに目から鱗が落ちる思いでした。

そして、2012年に自民党が発表した改憲草案について、長谷部先生はひとことでいうと憲法に書いても意味のないことが列挙してあると断じています。そもそも、「憲法は国の統治機構のあり方を定め、国家としてできないことを定めたもので、国家が従うべきことを欠くものであるから、心のもちようや生きる目標に関して国民が国家の指令に従うよう書くべきものではありません。」と続けています。そして、さまざまな考えを持つ人、多様な価値観があることを認めた上で、フェアな共存を図ろうとするのが近代立憲主義とする先生の主張は、大いに説得力があると思います。

政治の私物化、劣化や官僚の堕落が顕著になっている今日この頃、日本国憲法のあり方については、僕たち一人ひとりが十分に考えなければならないでしょう。